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さよなら大好きな人

第二話「親友」

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 新幹線の立てる大きな音が霞んで聞こえる頃、僕は今朝のことを思い出していた。あの子との、別れの瞬間を。
 僕の目の前には、彼女がいる。いつも通り隙のない優等生スタイルを、最後の最後まで貫いて。制服の着こなしも、髪型も、毎日学校で眺めていたそのままの姿だった。だからだろうか、不思議と僕の態度もいつもどおりだった。悲しい別れの場面などではなく、ありふれた日常の1ページ。そんな風に思えていたから、悲しみは湧いてこなかった。見知らぬどこかへ行かなくてはいけない事にさえ、悲しみは湧かなかった。普段と変わらない表情で静かに微笑んでいる彼女を前にして、僕の心も静かな湖面のように穏やかだった。
「相変わらず、早起きだな」
 静かに話しかける。その声は、早朝5時の澄んだ空気に溶け込んでしまいそうだった。陽が昇りきらない薄闇の向こうで彼女が小さく答える。
「あなたは、よく寝坊せずに起きられたわね。いつも遅刻ギリギリなのに」
「流石に、今日は寝坊できねぇもん」
 彼女の、眼鏡の奥で瞳が輝いている。黒曜石の様に、輝いている。
「今日は、じゃなくていつも寝坊しないように心がけなさいよね」
 俺に説教する口調も表情もいつもと同じだ。ただ一つ、その瞳を除いては。朝闇の中、漆黒に輝く彼女の眼の中には、いつもより星が多い気がした。
 ――――いや、気のせいだ、自惚れるな。寂しがって泣いてくれているかもなんて、期待するな。
「……これからだってそうよ? 向こうの、えっと、広島だったかしら? そっちに行っても、毎日寝坊しないでちゃんと起きるのよ」
「わかってるよ」
「勉強もちゃんとするのよ。この私が、あなたのどん底の成績を平均にまで上げてあげたんだから、維持しないと怒るわよ」
 彼女の説教は続く。愛おしくも鬱陶しかった小言でも、最後だと思うと妙に感慨深い。人差し指をピンと立て、眉根を寄せてくどくどと言葉を続ける彼女。この姿も、これで見納め。そう考えてしまうと、いよいよ実感が湧いてきた。
 そうか、今日で、別れか……。
 僕は苦笑とも、泣き笑いともつかない微妙な表情で彼女を見ていた。不意に、彼女の言葉が途切れた。
「寂しく、なるわね」
 ポツリと呟いた彼女はやっぱり微笑んでいたけれど、言葉通りどこか寂し気に見えた。少し、嬉しかった。
 そうだな、とは言わない。照れくさくて、代わりに鼻で笑ってやった。
「その説教聞かなくて済むようになると思うと、僕は清々するけどな」
 言ったわね、そんなこと言うなら、毎日メールで長々とお小言送りつけてあげましょうか――――
 いつもなら、そう、昨日までの彼女なら、そんな風に元気な憎まれ口を叩いてくれるはずだった。それなのに……俺の目の前の少女は、何故か顔を歪めて、必死に何かを堪えているのだ。今思うと、彼女は泣き出す寸前だったのだろう。僕の前で泣かないよう、必死に耐えていたのだろう。だが、彼女はこれまで、一度だって僕にそんな表情を見せたことはなかった。彼女が唇を必死に噛んでいる理由を、僕は勘違いした。薄闇の中で赤らんでいる頬を、僕は怒りだと思ってしまった。
「悔しかったらもう少しお淑やかになってみろよ。もうちょっと、愛嬌があってもいいんだぞ」
 僕らの関係は友達というより、小競り合いの相手というか、喧嘩仲間というか、とにかく一風変わった付き合い方だった。だから普段はこうして煽りあって、憎まれ口を叩き合っていたのだ。僕はそれを心地いいとさえ思っていた。彼女もそう感じていたのは、まぁ間違いないだろう。
「……土中君は」
 彼女に似合わぬ小さな声で、ポツリと呟いた。眉を寄せて難しそうな顔をしている彼女の瞳を、僕は覗き込んだ。目を合わせるのは簡単なことだった。僕らの身長はほとんど同じだったから。中学生ならまぁ、こんなものだろう。でも、もし次に会うことがあったら――――その時が来るなら――――きっと僕は、彼女を見下ろすことになっているのだろう。
「私みたいな可愛げのない女の子より、もっと女の子らしい素敵な子の方が、好き?」
 彼女もまた。俺の瞳を覗き込んで尋ねてきた。その表情はどこかしおらしい。強気で頑固な委員長の顔に、これまで一度も浮かんだ事のない未知の表情だった。そして、この質問も。
「どういう意味……」
 何でそんな女の子らしい表情を浮かべているんだよ。お前、男勝りで強気な、あの委員長だろう。そんな表情、お前らしくないだろう。大体その質問何なんだよ。そんなの――――そんなの、恋バナみたいじゃないか!
 頭の中で数多の疑問が渦を巻いていた。辛うじて口に出せた微かな一言が、妙に情けなく感じる。気付くと、彼女の頬はどこか赤みを帯びていた。
「そのままの意味よ? 土中君は、私みたいな女の子、嫌い?」
 何を聞かれているのか、正直良くわからなかった。彼女のことは、嫌いじゃない。確かに昔は鬱陶しく思っていたけれど、今は口うるさい親友くらいには思っている。でも、彼女が求めている答えはそういうことではないというのも、なんとなくわかる。いつもみたいに、勉強に関する問題を出されている訳ではないというのが、なんとなくわかる。
「えっと……」
 何と答えるべきなのだろうか。今まで、他の女の子との間でこういう状況になったことはあった。つまり……告白だ。そんな時、僕は割とスマートに切り抜けることができていたのだ。でも、彼女は――――矢車風香は、他の女の子とは違うと思っていた。彼女は親友で、委員長で。もしかしたら僕は、彼女のことを好きだ、と思いながらも、異性だとは思っていなかったのかもしれない。
 だが、彼女は女の子だった。僕と同い年の、女の子だったのだ。そんな当たり前のことに気づかされた途端、頬の温度が突如として上がり始めた。
 頬を撫でる朝の風が、さっきより冷たく感じる。気づいていなかった彼女への深い好意を、その頬の熱が改めて実感させてくれる。
「土中君、どうしたの?」
 長い間逡巡したまま答えを返さない僕に痺れを切らしたのか、風香が怪訝な顔で僕を見つめた。眼鏡の奥の、黒くて大きな瞳に自分が映っている。その事が何だか恥ずかしくて、思わず目を逸らした。頬が熱を持っている。心拍数が上がった。まるで運動後のような自分の身体の反応に戸惑ってしまう。
「ねぇ、答えて?」
 そんな僕の具合を知ってか知らずか、彼女は一歩距離を縮めてきた。僕に逸らされた目線を再び合わせてくる。身体の異常が、加速する。僕の頭の中も、異常状態だった。あまりに狼狽したものだから、つい言わなくてもいい答えが、ポロリと口からこぼれ落ちた。
「お、お前、女だったんだ」
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