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Far away

Far away 2話『11/21(金) その1』

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 11月21日金曜日

 お兄ちゃんと野宮伊代を殺した。
 
 いつも制服のポケットに入っているサバイバルナイフで殺した。窓から野宮伊代の部屋に入ると、まずは私に背を向けていたお兄ちゃんの背中にナイフを突き立てた。スーマーで買ってきた鶏肉に包丁を突き立てる時よりは弾力があって、そして異物を拒否しようという抵抗力はあった。筋肉がある分硬い。近所の犬や猫なんかは筋肉があまりなくてブヨブヨしていたから、初めての感じだ。柔らかい内蔵を掻き混ぜる感覚とは違う。硬くて重いものに異物を突き立てて、深く深くへと飲み込ませてゆく感じ。
 お兄ちゃんへの愛はもう無かった。私を裏切ったこいつは、今まで私を人間扱いしてこなかったやつらと、もう何も変わらない。悲しみだとか苦しみだとか、そんなものはもう私の中になかった。何時もの様に、温かい肉に怒りを突き立てる。それだけ。ネズミを引き裂いている時と、何も変わらない。
 刃を全部お兄ちゃんの背中に飲み込ませると、今度は勢いよくそれを引き抜いた。一緒にどす黒い血が飛び散る。でも、場所が悪かったんだろうか、思ったほどの量ではなかった。ナイフを抜いた辺りから、白いシャツがどんどん赤く染まってゆく。飛び散る血液は少量だったけれど、服に広がるシミは結構大きい。制服のワイシャツがぐしょぐしょに濡れてゆく様子は、少し色っぽいと思った。今までそんな目で見たことなかったのに、最後の最後で。お兄ちゃんは大きく痙攣すると、後ろへ倒れた。つまり、私の方へ。私はその体を抱きとめると、顔を覗き込んだ。お兄ちゃんの顔は真っ白で、もうすぐ死ぬ人みたいだった。あ、そうか、もうすぐ死ぬんだ。
「墨花、どうして」
 お兄ちゃんの声は掠れて、途切れ途切れで、殆ど何も聞こえなかった。でも恐らく、こう言ったんだと思う。
「私を裏切ったから」
 お兄ちゃんは小さく首を振った。血の気はないのに、顔中汗塗れ。腕の中で、お兄ちゃんの体が小刻みに震えていた。口をパクパクさせているのは、空気を求めているのか何か言いたがっているのか。良く分からない。背中を刺したから、肺に穴があいたのかもしれない。私にもたれ掛かるお兄ちゃんの体はすごく重い。だんだん、私の制服がお兄ちゃんの血で温かくなっていくのが分かった。黒いセーラー服でよかった。血が目立たないから、このあとも動きやすい。
「すみ、すみか。は、あ……」
 殆ど閉じかかっている瞳が、縋る様に、そして力なく私を見ているのがわかった。その顔は痛みと苦しみ、そして多分絶望と疑問に歪んでいる。出来れば後悔とか懺悔とか反省も入っていて欲しいけれど、その表情を歪めているのがどんな感情なのか詳細に分かる便利な能力を私は持っていない。残念だ。
 一番よくわかったのは、お兄ちゃんが苦しがっているっていうこと。私を裏切ったこの人なんて正直もう、心底どうでもいいけれど。この15年間守り続けてくれた恩があるから、最後にそれを返そうと思った。楽にさせてあげよう。私はお兄ちゃんの血に濡れたナイフをその喉元に当てると、勢いよく掻き裂いた。血飛沫。背中から大量の血が流れている割にはかなりの勢いだ。初めからここを裂いていた方が面白かったかな。血を流しながら大きく痙攣したお兄ちゃんの体は、最後には動かなくなった。血の勢いも止まる頃、お兄ちゃんは果てた。出血が酷いから、体温の低下も早い。冷たく動かないお兄ちゃんは最早人形と同じだった。
 お兄ちゃんを片付けると、私は野宮伊代を見た。野宮伊代は腰が砕けて動けない様子。まだ一滴の血も流れていないのに蒼白で、瞬きを忘れたかのように、ずっと目を見開いたまま固まっていた。大きくて丸い可愛らしい目が、ただ驚きに支配されている。バカみたいにぽかんと開けっ放しの口。こっちもこっちで、人形だ。
「野宮伊代」
 お兄ちゃんを床に置くと、立ち上がって呆けている野宮伊代を見下ろし、声を掛けた。バネじかけの人形のようにびくりと反応した彼女は、ゆっくりと緩慢な動きで私を見た。次第にその瞳に様々な感情が浮かび出す。絶望、恐怖、悲しみ、愛しさ、驚き。滑稽だった。この世で一番大嫌いな奴が、この世で一番大好きな人を失って、この世で一番の絶望を味わっている。この私の手で。傍に竹刀もあるというのに、お得意の剣道は封印されたままだ。好都合。あんなもの振り回されたら、たぶんつぎにしぬのは私。でも野宮伊代が呆けている限りは……。
「私、何度も言ったよね、お兄ちゃんから離れてって」
 野宮伊代に近づきながら言った。覚醒の兆候が見えないかどうか、注意深く表情を観察しながら。表情が変わったら急いで逃げないと、こいつを片付ける前に殺されてしまう。
「あんたのせいだよ、私からお兄ちゃんを奪おうとしたから。お兄ちゃんが死んだのはあんたのせい。あんたがお兄ちゃんを殺したの。わかる?」
 ゆっくりと言い聞かせるように。漆黒の瞳が揺れて、頬に涙が零れた。
「私が……」
 私の言葉を確認するように、ぽつりと呟く。もう野宮伊代は死んだも同じだ。最悪な死に方。
「あんたが現れたかったらお兄ちゃんは死ななかった。私と幸せに生きてゆけた。あんたのせい。あんたさえいなかったら、何も変わらなかったのに!」
 相手を攻撃する言葉で、自分の体がどんどん熱くなっているのを感じた。憎い。言葉にして改めてわかった。憎い。最初から気に入らなかった。この野宮伊代という勘違い女。私とお兄ちゃんの二人だけの世界に勝手に土足で入ってきて、全てを壊していった。死ねばいいんだ。こんなやつ死ねばいいんだ。地獄に堕ちればいい。私はお兄ちゃんと二人、天国で野宮伊代が現れる前の幸せな生活に戻るんだから。ふたりっきりで。二人きりの世界で。邪魔する人なんて誰もいなくて、お兄ちゃんに好意を寄せる馬鹿はいない。お兄ちゃんは私だけを見てくれる。そんな世界に生きたかった。私が求めてたのはお兄ちゃんだけ。お兄ちゃんがそばにいて私の名前を呼んで微笑んでくれる。それだけが望みだった。お金も友達も恋人も、他のものは何も求めていなかった。何も持っていなかった。ただ、私にはお兄ちゃんだけ。どうしてそれなのに奪われなくちゃいけなかったのだろう。許せない。何かを奪うなら、もっとたくさん持っている恵まれた人から奪えばよかったんだ。
 気付くと、血まみれの野宮伊代が倒れていた。頭から爪先まで、全身切り刻まれている。我を忘れた私がやったんだろう。上出来だ。上出来だけど、ちゃんと殺している間も意識を保っていたかったな。
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