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短編小説

掌編小説『生と死』

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 歩を進めると、爪先に何かが触れた。どうせ誰かの屍だ。分かりきった答えを確認する気にもなれない。彼は魂の抜けたような表情で、西日に向かって歩き続ける。
 戦闘が始まって一週間。みんな死んでしまった。味方も、敵も。帰る手段はない。あちこち腐臭が漂い、血潮が大河を作っている。あちこち真っ赤だ。地平線に近づいてゆく太陽と、無数の兵士から流れ出す血液によって視界が赤く染まっている。そうか、赤は死の色だったのだ。
 何故自分は助かったのだろう。一番生き残るべきではない人間が何故、何十万の軍人の中で唯一の生者となったのだろう。軍に入ったのだって、死ぬ為だった。人の世に絶望して、生きる気力を失った。死のうと思った。だけれど自殺する勇気がなくて、気付いたら軍にいた。そんな臆病で身勝手な自分が、何故。同僚の一人は、この戦争が終わったら彼女と結婚するのだなどと言っていた。それ、死亡フラグだ、なんて笑いあったのはつい数時間前。直属の上官は、結婚を控えた娘がいる。さっさと戦争なんて終わらせて、式に顔を出してやるんだと聞かされたのは、太陽が南中していた頃。何故、人生に希望を持っていた彼らが死んで自分が生き残ったのだ。どうして彼らは死なねばならなかったのだ。
 一体誰がこんな結末を望んだというのか。
 太陽はすっかり地平線に沈んでしまった。そういえば、何故自分は歩き続けているのだろう。彼は不図疑問に思った。歩くのをやめれば死ねる。死にたいなら、ここでのたれ死ねばいい。このまま歩いて万が一祖国に帰れたら、また死にたいほど嫌なことが待っている。
 人を騙すことで喜びを感じる人、人を泣かすことで私腹を肥やす人。死んでゆく親しい人達、見つからない居場所。世間の冷たい目、死ねと言いながら笑う奴ら。
 この世はいつから、こんなに生きる価値の無い様な場所になったのだろう。彼は少し考えてから、足を止めた。
 子供の頃は、もっと世界は美しかった。希望に満ち溢れていた。空はもっと鮮やかで、赤は勇気の色だった。死にたいなんて、冗談でも思ったことはなかった。母は慈悲深く、優しかった。寡黙な父は怒ると怖かったけれど、一番の理解者だった。友人達はいつも笑っていて、どんな時でも手を差し伸べ合った。不満なんて小さなもので、悲しみなんて笑い飛ばせるようなチンケなものだった。
 あの頃に帰りたい。世界がまだ輝いていた頃に戻りたい。いや、せめて数時間前に戻して欲しい。この地に横たわる無数の躯がまだ、誰かを愛することが出来ていた頃まで。
 彼は、空を仰いで少し考えると、また歩き出した。西へ。その先に何があるのかは、ぼんやりとした頭では思い出せなかった。どこへも向かってはいなかったのかもしれない。然し、歩き続けなければやりきれなかった。徐々に何も見えなくなってくる。暁は次第に終わりを告げ、西の空までも黒く塗られていった。月はない。墨を流したかのような暗黒だ。
 彼はもう一度空を見上げた。どこからが空で、どこまでが人の世なのかわからなかった。そうか、これが地獄だ。自分は生きながらにして死者の世界に迷い込んだのか。
 いや、そもそも自分は本当に生きているのだろうか。
 周囲にこんなにも死者が溢れているのに、自分がたった一人だけ生きているというのも、妙な話だ。自分だけがこうして地を踏みしめているというそれこそが、おかしいではないか。こうして生きている様に感じているのも、死者の妄想ではあるまいか。
 彼はそっと自分の頬に触れた。暖かい。暖かいのは、涙を流しているから。だがこの涙は、本当に涙なのだろうか。試してみる必要がある。自分が本当に生きているのか、それとも死んでいるのか。
 彼は懐から拳銃を取り出すと、こめかみに当てがった。

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