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短編小説

短編小説『弱い冬』さよなら大好きな人スピンオフ

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 私は弱い人間だ。
 こんなに寒い冬を、私は経験したことがない。当たり前の様に居た彼がもう遠くへ行ってしまったという、ただそれだけのことなのに。
 桜が散り始めるような時期だった。土中竜君は、私が生まれて初めて人を好きになった、その相手。きっかけは、なんて事ない。図書室にて手が届かずに困っていた本を渡してくれたというだけの、小さな親切だ。恋愛小説は読むのに、恋愛そのものには興味がない。そんな私を一瞬にして恋に溺れさせる笑顔を、その時彼は見せた。
 それからというもの、私は頻繁に彼の世話を焼くようになった。少しでも彼の傍に居たくて、委員長という特権をフルに使用していた。学級委員なら、クラスメイトの世話を焼いたって怪しまれる事はない。だけど彼は、私を良くは思っていなかった。そんな彼の視線に何度も傷つけられた。面と向かって、近寄るなと言われたこともある。私の事がうっとおしいと、友人相手に話しているのを聞いたこともある。彼は、私が大切にしている小さな思い出なんてとっくに忘れてしまっていたのだ。休み時間の度、堪えきれずにお手洗いで涙した時期もある。好きでいることが辛かった。彼を好きでいることに何の意味もなかった。自分が傷つくばかり。それでも、好きという気持ちを止める術を私は知らなかったのだ。彼の近くに居たくて、何度嫌な顔をされても話しかけた。
 そんな彼の表情が徐々に柔らかくなっていったのは、夏休みが終わって暫くしてからの事だった。きっかけはなかったと思う。だけれど私はちゃんと覚えている。問題集と睨めっこをしている彼を何時もの様に覗き込んで、頼まれてもいないのに解法を教えた。いつもなら、そんなこと聞いていないからあっちに行ってくれ、と辛辣に言われただろう。その頃の私は、もう彼のそんな言葉は慣れっこになっていて、麻痺した心は傷つくこともなくなっていた。だからかえって、彼が呟いた言葉に胸が押し潰されそうな感慨を抱いたのだ。
「ありがと」
 その日は、久し振りにお手洗いで涙を流した。嬉しかった。報われた、とは思わなかったけれど。少しでも彼と近づけたことが何より幸せだった。私の大切な思い出が、またひとつ増えた日だ。
 それからの速度はあまりに急だった。彼は少しずつ私に笑みを向ける様になった。相変わらず辛辣な言葉を並べられたけれど、以前のように悪意はなかった。まるでとても親しい人へ発せられる憎まれ口の様で、かえって嬉しいと感じてしまう。
 彼がいなくなる事を知った頃には、生まれた頃から同じ時を過ごす親友の様になっていた。そう、親友だった。彼と親しくなれたのは嬉しかったけれど、所詮私達の関係は友人で終わってしまったのだった。彼の心の中の私は、世話好きな委員長のイメージしかなかったのかも知れない。その事が、彼の転校の事実よりも悲しかった。だけど同時に満足してもいた。
 これまで、彼が隣にいた冬など私は一度も経験したことはなかった。だから、いつもと何も変わらないはずなのに。私は弱くなっていた。大切なものを得てしまったのがいけなかったのだ。彼の笑顔のせいで、私はいつの間にか以前の私とは違う人間に成り果てていた。去年までは目の前の物事だけを見つめて突っ走る、そんな子供だった。勉強に対してはいつもそうだった。彼に近づいた時も、それだけが強みだった。
 だけど恋を覚えてしまったのだ。私には、一度覚えてしまった鮮烈な感触を忘れることなど出来無い。彼の心を感じられないのが何より辛い。心が冷え切ってしまいそうだ。忘れたい。何度もそう願った。叶わない事は知っていたはずなのに。彼の傍に居る事が適わないなら、せめてこの願いだけは叶えて欲しかった。
 私は弱い人間だ。恋を覚えてしまった、弱い人間だ。もうここにはいない誰かを忘れられない。きっと一生忘れないであろうことを私は確信している。一生だ。だけど、だからこそ、同時に信じてもいるのだ。もう一度彼に会える日を。

お題:即興小説トレーニング 様より『弱い冬』
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