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こっくりさん

「こっくりさん」第一話「榊原悠二」

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われわれが怖れなければならないただひとつのことは、恐怖そのものである。

―― フランクリン・ルーズヴェルト (大統領就任式演説-1933年)

***


 榊原悠二は、目を瞑ったまま徐ろに立ち上がると静かに靴を脱ぎ、机上に立ち上がった。教室の一番後ろにいる悠二の行動に気づくものはない。数学教師で担任でもある浜田は、延々と黒板に向かって授業をしている。悠二も含めて、意識がこの世にないものは教室の三分の二を占めている。彼は大きく息を吸い込むと、軽快なリズムの歌を口ずさみ始めた。浜田の掠れた声だけが響いていた教室に、突如として若者の声が混じり始める。浜田を始め、目を覚ましているものが次々と教室の後ろに注目し出した。時間と共に悠二は益々声量を上げ、張り上げるように熱唱を始めた。方程式の代わりに流行りのアイドルの曲で満たされる教室。熱中した悠二はとうとう踊りまで付け始め、いよいよ収拾がつかなくなる。徐々に眠っていたものも起きだして、全員が彼に注目する頃には、彼は自分の歌声に没頭して無我夢中に踊り狂っていた。
 前髪は不自然に乱れ、頬には制服のボタンと同じ跡。口元には白い粉がついている。彼が呂律の回らぬまま口ずさむ歌詞は不明瞭だった。音の外れた下手くそなそのメロディーから辛うじて、某大所帯女性アイドルグループが数年前にヒットさせた曲だと判別できる。クラスメイト達は、突然の行動に呆気にとられて一番後ろの席の彼を見つめるのみ。まるでそれは、下手くそなゲリラライブだ。目を閉じたままの悠二は、41人の生徒と教師からの視線で串刺しにされていることにも気付かずに踊り続ける。暫くの間彼の音痴な歌声だけが響いていた教室に、次第に笑い声が聞こえてくるようになった。事態を納得できずとも、午前最後の授業中に起きたこの出来事があまりに滑稽だと理解した生徒の口から、次々と笑い声が漏れ出す。いつしかそれは、教室を騒然と満たしていた。腹を抱える生徒、拳で机を打ち鳴らす生徒、腹筋が吊ったのを訴える生徒。そして彼らの笑い声によって、痺れた頭を漸く目覚めさせられたかの如く、教師も徐々に理解する。我が校の閻魔と恐れられる自分の保健体育の授業で生徒が突然踊りだしたこと。生徒達が普段はありえないだろうに、授業中に笑い声を、しかも自分の目の前で発していること。そしてそれを齎したのが我が校一の問題児、榊原悠二だということ。
 ……あぁ、またあいつか。
 教師浜田は米神や眉間を抑えたくなるのを、自らの頭を抱えたくなるのを、床に蹲りたくなるのを何とか抑えこんだ。そこからの彼は早かった。ピキピキと音が聞こえる程米神に太い青筋を立て、指の関節が心配になる程強く手中の竹刀を握り締める。そしてそれを床に叩きつけるのと同時に、窓ガラスがビリビリ震えそうな程の怒声を張り上げた。
「榊原ぁああああッ!!!」
 その声に、笑い声を上げていた生徒達は一瞬にして黙り込む。未だ自身の鼓膜を震わせているその声に呑まれて、笑ったまま凍りつく。自業自得ではあるが、怒れる教師の標的である少年を案じた。件の榊原悠二は自分の名を呼ぶその声でようやく覚醒したらしく、その場に突っ立って目をパチクリさせていた。
「え? 何?」
 教室の異様な雰囲気、そして恐るべき教師が纏う怒りのオーラを理解しきれず、悠二は間抜けな声を上げた。その声に再び、小さな笑い声が上がった。そして担任、浜田はそれを振り払うかの如く大声を上げる。
「榊原ぁっ! 授業中に何考えてんだっ」
「……え?」
 鬼の形相をした浜田が、ここ最近見た事無い程怒り狂って怒鳴り散らしている。それも、自分に向かって。訳が分からず、悠二は隣の席で呆れたように頬杖を付いている少年に問いかけた。
「先生、なんであんなに怒ってんの?」
 さっきまで眠りこけていた少年に、声のボリュームを落とすという芸当が出来る筈もなかった。悠二の間抜けなよく通る声は、浜田の脳を貫通するように響いていった。
「お前が突然踊りだすからじゃないの」
 面倒臭そうに溜息を吐くと隣の席の少年は、悠二の方を見もせずにポツリと答えた。
「え、先生俺に向かって怒ってるの?」
「そう」
「何で!?」
「お前が突然ヘビロテ踊りだすから」
 寝起きの悠二は、2つのことを同時に理解することができなかった。気怠そうな少年とのその馬鹿な遣り取りで、再び教室に笑いが起こる。野崎吉彦は、悠二の間抜けな性質を幼い頃からの付き合いで存分に理解していたため、口元に笑みを浮かべることもなく再び溜息を吐いた。そして数10秒間かけて漸く悠二は、事態を飲み込み始めた。
「……え?」
 踊った? いつ? 授業中に。どこで? 教室で。誰が?
 ――――俺が。
 悠二はゆるゆると己の腕を胸の高さまで広げ、自分の状況を確認するかの様にキョロキョロと見下ろした。そしてもう一度クラスメイト、吉彦、浜田を眺めて一言呟く。
「……やっべ、寝ぼけてた……」
 その言葉に、再び教室は爆笑の渦に飲み込まれた。今度は、悠二もクラスメイトに混じって豪快に笑い始めた。浜田は、愛用の竹刀を投げつけようという衝動を押さえ込むので精一杯だった。自分の力ならこの竹刀を教室の一番後ろのあのバカまで飛ばして、串刺しにするなんてこと容易いのに。いや、出来るから抑える。代わりにここ数分で枯れそうになっている声を再び張り上げる。生徒の笑い声は一瞬にして立ち消えた。
「さかきばらぁ……ッッ!!! 廊下に立ってろッ!」
 怒声とともに飛んだ唾液がシャワーの様に降り注ぐ。だが、悠二は鬼教師の怒声をモノともせずあっけからんとツッコミを入れた。
「え、何ソレ古ッ! ドラえもんかよ」
 浜田は、額の青筋が2,3本音を立てて増えたのを感じた。
「ごちゃごちゃうるさいッ」
 唾を飛ばしながら不図、浜田は恐怖を感じた。その内血管が切れて死ぬかもしれない。
「いいから立ってろッ!!」
 こいつのせいで。
「はいはい」
 悠二は済ました顔でぞんざいに手を振ると、ヒョイと床に降り立つとすぐ傍の引き戸を開けた。明らかに自分と温度差がある態度で教室から出て行く悠二の背中を睨みながら、浜田は思った。怒鳴ったくらいでゼイゼイと喘ぐ自分は、そろそろ墓石の準備でもしておくべきかも知れない。強面教師が一人不安を抱いている教室の外で、扉を背に悠二は溜め息を吐いた。そしてポケットの携帯電話の液晶で時間を確認すると、一人呟く。
「そろそろ購買出てるかな……買ってこよ」
 腹から聞こえる悲鳴に後押しされるように、悠二は歩き去った。彼の呟きと腹からの同意を聞いていたのは、教室の一番後ろ、一番右側の席で頬杖を付く吉彦だけだった。
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