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さよなら大好きな人

「さよなら大好きな人」 第二話「形見」

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 新幹線の立てる大きな音が霞んで聞こえる頃、僕は今朝のことを思い出していた。あの子との、別れの瞬間を。
 僕の目の前には、彼女がいる。茶縁のメガネに、真っ黒な髪をきれいに肩で切りそろえた彼女。ブラウスのボタンは全部上まで閉じていて、リボンもきっちり結んでいる。スカート丈はひざ下で、ちっともお洒落なんか気にしちゃいない。『校則』を、校内で一番しっかり守っている奴が彼女なのだった。
 今朝僕を見送りに来てくれたそ彼女は、いつもと何ら変わりのない姿だったからか、僕はとても安心したのをよく覚えている。口元は穏やかに上向きに結ばれていて、瞳はキラキラと輝いていた。その煌きは涙だったんじゃないかって、ちょっと自意識過剰な期待を抱いたっけ。僕は最後の会話をそっくりそのまま、CDを巻き戻すように繰り返して回想した。
「もう制服着てるのか? まだ5時だろう。めちゃくちゃ早いじゃん。お前部活もやってないくせに」
 僕達の出発は電車の都合上始発で、だから彼女以外に見送ってくれる人などいなかった。いつもなら家にいる時間帯なのに彼女は、律儀に見送りに来てくれたのだ。僕は照れくさくて絶対に口にしなかったけど、彼女の優しさがとても嬉しかった。転校先には、絶対こんな優しい奴なんていない。なぜかそれが確信を持って言えたから、余計彼女と離れるのが嫌だった。僕がいつのものように言うと、彼女もいつもと何ら代わりのない口調で返してくる。
「ついでよ。家に戻るのが面倒くさいだけ。学校で勉強したほうが多分集中できるもの」
 僕はため息をつくフリをした。
「本当、お前は勉強のことしか頭にないんだなぁ」
「そんなことないわよ。勉強以外にも考えていることくらい……あるんだから」
 ちょっぴり俯き気味にそう言った彼女は、何故かすごく可愛かった。抱きしめたいくらいに。そしてその時の彼女は、見たことのないようなしおらしい表情を浮かべていた。でも僕には、何故そんな表情をするのか理解できなかった。いつものようにからかうだけ。
 「ホントかよ! 勉強意外に……? どうせ、校則とか成績とか進路のことだろ? もっと人生楽しめよ。青春は一度きりだぞ」
 すると彼女は、ムッとした表情で睨んできた。口元は先ほどと逆の向きに結ばれて、目はキッと吊り気味になる。どんな表情も好きだ、可愛い。そんなふうに思ってしまう僕は少し病気なのかも。
「私だって、他にもいろいろ考えることはあるわよ。どうせ土中君にはわからないでしょうけどね、一生」
 僕も言葉で応戦する。これが最後の会話になるのに、僕たちのやりとりはいつもとなんにも変わらなかった。
「お前のそういうところが高慢なんだよなぁ……。お前こそ、その性格直さないと一生結婚できないぞ」
 そう言うと彼女は、いつものように眉をひそめ、ぷいとそっぽを向く。ここまではいつもと変わらないはずだった。 何もかも一緒のはずだった……。
「モテるような子だったらこういうとき、可愛らしく頬を膨らませて、『私は土中君と結婚できればいいんだもん!』なんて言うのになぁ、お前はそういうところが足りん!!」
 普通こんなこと女の子に対して言えないだろう。最後の方は妄想も混じっていたし、呆れられたり引かれたりしても文句は言えない。けど希望に反して僕たちの関係は『親友』みたいなものだったから、彼女に対しては何でも気兼ねなく言うことができた。そう、いつもだったらそうだったんだ。
「……土中君は、そういう女の子のほうが好き?」
 今日の彼女は、いつもと違った。僕の顔をのぞき込み、上目遣いに問うてくる。わずかに頬は赤らんでいる。こんなの初めてだった。
「……土中君、やっぱり私みたいな可愛げのない子、嫌なのよね。貴方って、顔だけはいいから向こうでもきっと女の子にモテるわ。そしたら、きっと私のことなんて思い出になっちゃって……いつか、理想の女の子と結婚するのよね」
 最後の方はまるで自分自身に言い聞かせるかのように、彼女は静かに言った。僕は何も言えなかった。彼女の言葉の真意もわからないまま、二人は硬直していた。何も言えないで見つめ合っていると、駅の方から誰かが僕を呼ぶ声がした。
「竜~! そろそろ電車が出るわよ~」
 母さんだった。これでお別れ。
 もう、二度と会えない。
「えっと、じゃあ……さよなら。電話するから。手紙も送るし……メールもするから、そこまで悲しがることないんだぜ?」
 その言葉は、彼女に言い聞かせると共にそっくりそのまま自分に向けた言葉でもあった。彼女も、もうしおらしい表情などしていなくて、いつもの優等生らしい堂々とした態度に戻っていた。表情はさっきのまま少しムッツリだ。
「わかってるわよ。別に、土中君に会えなくなるくらいで悲しくなんてならないわよ。……転校先の学校でも、ちゃんとやるのよ。先生方にご迷惑をおかけしたり、何か問題を起こしたりしたら……殴るわよ」
 彼女の言葉に、二人で笑い合う。
「殴れるもんなら殴ってみろよ」
「そうねぇ、じゃあ、その時の分を今お見舞いしておくわ」
 コツン、と彼女の拳が軽く僕の額にあたる。僕が見つめればいつの間にか、彼女は再び笑顔になっていた。でもいつも巫山戯あう時に見せるのじゃなくて……何かをこらえているような。それが涙だったら、そんなに嬉しいことはない。名残惜しそうに拳を下ろして、彼女は言った。
「忘れん坊の土中君のことだから、絶対に私のことなんて忘れちゃうでしょう? そんなの癪だから……これ、あげるわ」
 拳と反対の手で、彼女は僕に何かを差し出した。
「大切にしてなさいよ。捨てたり汚したり壊したりしたら――どうなるか、分かっているでしょうね?」
 それは、風車だった。彼女の名前は、矢車風香(やぐるまふうか)。父親が民芸品で風車を作っているということもあり、それは彼女にとって特別な品物だった。今彼女が僕に手渡しているそれは、彼女が以前父に誕生日に貰ったと言って大切にしているもののはずだった。
「……これ」
 僕はなぜだか胸が熱くなった。目に力をいれ、要らないものがあふれでようとしてくるのを必死に抑える。
「……土中君は、私に何かくれないの? 形見」
 そんな僕を気遣ってか、優しい口調で風香は尋ねてきた。思わず僕は吹き出す。僕の葛藤には気づかないふりをしてくれる彼女の気遣いが嬉しい。でもそれにはあえて触れない。
「形見って……まるで僕が死んじゃったみたいじゃないか。不謹慎だな」
 そう言いながらも、危うく渡し忘れるところだったものをポケットから取り出す。
「ホラ……」
 それは、手のひらサイズのモグラのぬいぐるみだった。以前彼女が、僕に言ったのだ。
『土中君って、モグラが中に入っているのよね』
 その時は意味が分からなかったけど、後々に彼女は鼻高々に教えてくれた。
『モグラって、つち・りゅう……土竜って書くのよ。土中君の名前に入っているでしょう? あなたも私みたいに沢山本読めば、そのくらいのことはわかるのよ』
「私の言ったこと、覚えていてくれたんだ……」
 風香は、ちょっと驚いたように、でも感動してそう呟いた。
「当然だろ……ところで、あの、僕」
「竜~! 早くしなさい」
 遠くで母さんが呼ぶ。そのせいで、言いたいことを言うチャンスを逃してしまった。
「じゃあ、僕行くから――さよなら」
 気まずくて、恥ずかしくて。僕は軽く手を振っただけでくるりと背を向け、走り出した。
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