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さよなら大好きな人

第一話「恋」

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秋。

僕ははじめての引越しをした。

理由は父さんの転勤だったけど、いい迷惑だ。

東京からずっとずっと離れた広島が新しい家。

今までの友達とは、きっともう二度と会えない。

あの子とも、もう二度と会えない。






 窓の外を田園風景が流れてゆく。新幹線特有の、化学繊維か何かの不快な匂いが鼻につく。滑るように駆けてゆく列車の中は、僕には酷く居心地が悪いように感じられた。さっきまで頻りに話しかけてきた母は、目を閉じて眠ったふりをしたら静かになった。
 目を閉じて、瞼の裏にあの子の姿を思い描く。三つ折の白い靴下、膝下の長いスカート、形良く結ばれたリボン。一番上のボタンまで閉じられて、一ミリの隙もないブラウス。漆黒の三つ編みに、銀縁のメガネ。そしてその奥に光る、溢れんばかりの知性と、品性の色。時代遅れなまでに真面目な優等生。堅物で、頑固で、いつも偉そうな鼻持ちならない委員長。だけど自分の気持ちには素直で、たまに浮かべる照れ笑いがとびきり可愛らしいことを、僕は知っている。脳裏には絶えずあの子のことが浮かんでくる。あの子の事ばかり、考えてしまう。
 暫くすると、頭がぼんやりしてきた。本当に眠ってしまいそうだ。広い窓からはまばゆい西日が差し込んできて、僕の体を温める。この光を、今、彼女も浴びているのだろうか。あぁ、何を思っても、必ず彼女に行き着いてしまう。きっと、これから見るであろう夢も彼女のことに違いない。
 今までも、彼女への思いは自覚していた。いつも気づけばあの子の姿を目で追っていて、目が合うと全身が心臓になったように鼓動が大きくなった。彼女の笑顔が自分に向けられれば幸福な気持ちになり、その笑顔が他の誰かに与えられれば冷水を浴びたように辛い気持ちになった。それでも、何よりも彼女の幸せそうな笑顔が大切だった。その気持ちがなんなのかはわからなかったけれど。どうしてこんなにも焦がれているのかわからなかったけれど。あの子のことが、大好きだった。
 でも、今なら――――彼女に会うことが叶わなくなってしまった今こそ――――分かることがある。僕は、自分が当時思っていた以上に、その何倍も、彼女のことを愛していたのだと思う。
 最後に見た彼女の影がちらつく。長い腕を大きく振って、別れを叫んでいた彼女の姿が胸に浮かぶ。全身を引き裂かれるような痛みがぶり返した。閉じたまぶたの隙間から、ぬるい涙が流れ落ちた。失ってはならない自分の一部を奪われたような気がした。彼女がいるから、今の僕がある。あの子の存在がなければ、今の僕は存在しない。そんな大切なことに今更ながら気付かされた。失ってから気付かされたものがあまりに大きかった。
 もう、遅いのに。こんなに強い気持ちなら、伝えておくべきだった。当時抱いていた淡い想いなんかではない。今の僕を蝕んでいるのは、愛しくて、切ない、あまりにも大きな恋心だった。――――そう、これは恋だった。
 
 初めて彼女に出会ったのは、中学に上がってすぐだった。なぜだかわからないけれど僕はあの子に目をつけれれていて、事あるごとに小言を貰っていた。
 正直、初めは彼女のことが嫌いだった。目も当てられないほど醜くはなかったけれど、特別美しいわけでもない。至って普通の少女――――いや、どちらかというと特異なほど生真面目な少女――――にちょっかいを出されても、ときめくものは何もなかった。お節介な彼女は僕のやること為すこと全てに文句をつけてきて、まるで学校にいる間でさえも母に監視されているかのような気分になった。
「ほら、ちゃんと掃除しなさいよ」
「そんな風にふざけていたら給食こぼすわよ」
「授業の3分前なんだから、そろそろ座ったらどうなの?」
「また傘忘れたの? 朝天気予報とか見ないの? ……ほら、これ貸してあげるわ。私2本持っているの」
 成績がいいからといって自慢ばかりする高慢ちきなやつだとも思っていた。僕とは友達でもなんでもないのに、勝手に答案を覗き込まれるのは閉口した。うっとおしいと思ったし、どうしてここまで馴れ馴れしくされるのかわからなくて、困惑することもしばしばだった。
「そこ、間違ってるわよ。使う公式が違うのよ……こっちのほうを使ってご覧なさい」
「あら、前回より点数下がってるじゃない。ちゃんと勉強していたの?」
「その問題、解法が少し複雑だから教えてあげるわ」
 そんな彼女の態度に慣れだすと、いつしかそれが心地よい日常に変わっていくのを感じた。いつも気づくと傍にいる彼女が嫌ではなくなって行くのと、僕が彼女のことを理解し始めるのは同時期だった。彼女は高慢などではなかったのだ。彼女は努力家だった。いつも同じ目線で、僕と向き合ってくれていた。彼女が僕にそうしたように、僕も彼女をきちんと見つめて向き合えば、あの子は嫌な奴なんかじゃないこともすぐにわかった。自分の成績の良さを鼻にかけて、僕をしたに見たことなんて一度もない。その知識や英知を、僕に分けようとしてくれていたのだ。こんなにも子供っぽかった僕に。僕の方がよっぽど嫌な奴だったはずなのに、彼女はいつもにこやかに接してくれた。お節介だと思っていたのは今思えば優しさだった。どうして彼女が、こんなにも真っ直ぐに僕を見てくれるのか、相変わらずわからなかったけれど。
 僕がいつ、どんなきっかけで彼女の本当の優しさに気がついたのか……それもよくわからない。いつの間にか、彼女がそばにいることが当たり前になっていて、そして同時に心地よくなっていたのだろう。気付くと、それまで乱暴にあしらっていた彼女のお節介を、受け入れるようになっていた。
 そしていつの間にか、恋をしていた。
 もっと早く、気付きたかった。この気持ちが恋であることを知りたかった。そうでなくとも、もっと彼女に優しくしてあげたかった。どうしてもっと早く気が付けなかったのだろうか。
 別れることになった今、そればかり考えてしまう。もっと早く彼女を受け入れていれば、幸せな時間はその分長かったはずなのだ。もっと早く素直になっていれば。もっと彼女を知ろうとしていれば。もっと早く、僕が変わっていれば。そうしたら、きっと今頃思いを告げることができていたかもしれない。
 この気持ちを伝えられていれば――――彼女の微笑みを、僕だけが独り占めできたかもしれないのに。
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